スプートニク日本
築地最後のマグロ 東京は市場の閉鎖をどう受け止める
10月6日、日本の主要な魚市場である築地市場が閉鎖した。83年間の歴史は平成時代の夕暮れに終わりを告げた。騒々しいマグロの競りは今、築地が生まれた昭和時代が去ったように歴史の一部となった。スプートニク特派員は閉場した築地市場と開場した豊洲新市場を訪れ、市場関係者や購入者、地元住民や外国人に話を聞き、新たな魚時代の誕生に何を思うかを尋ねた。
築地
築地市場閉鎖から5日間が過ぎた11日朝7時ちょうど、かみや・まるはちさんはいつも通り、築地の中心にある、弁当やサンドイッチ、おにぎりを扱う店を開店した。記者の方に向かい、まるはちさんは客が今日は少ないと嘆息する。まるはちさんは築地市場に長く店を構えており、新市場に移転を望まない数少ない一人である。11日には築地解体作業が開始したが、まるはちさんは習慣を変えずに、いつもの場所で仕事を始めた。
それでもこの日、まるはちさんの店には客が訪れた。およそ100人の活動家と築地解体に反対する人が、閉鎖された築地の門付近に集まり、中に入れるよう要求した。都職員と大口論を交わした彼らは、30分後には市場に突入し、まるはちさんの元に真っ直ぐ向かった。

訪れた人の多くが築地の存続を訴えるのはこれが初めてではない。
「築地を別の場所に行かせないための活動を私たちは10年くらいしている」と市場のロゴ付きのTシャツを来た女性活動家は語る。 「安全でなければならないはずの市場があんなところに移転するのは、私たちは絶対に反対です。それから猛毒が出ているでしょ。初日から事故が起きていますよね」 一部の反対者は小池百合子都知事の言葉を信じない。小池氏は豊洲市場の土壌汚染対策は完全だと主張する。

「そもそもみんなの市場だし、豊洲は非常に危ないです。土に毒が埋まっている。地震に弱い。移転を推進しようとするトップの人たちは『安全だ、大丈夫だ』って言うんですよ。安倍が「福島の事故はもう安全なんだ」という嘘を言っているのと全く同じです」と、しんぶん赤旗の従業員こまたさんは主張する。 こまたさんは、朝早くから築地の門で待機していた。こまたさんなど労働組合のメンバーにとって、市場移転は政府批判の新たなきっかけとなった。

築地市場の近くを通りがかった人全員に「豊州移転を絶対許すな 安倍と小池を打倒しよう」と書かれた紙が配られた。 このパンフレットの製作者らは、移転が財産権のあらゆる侵害を禁止する日本国憲法第29条に違反していると考える。
憲法29条違反だ!
「築地の仲間は、移転で営業廃止、得意先喪失、営業規模縮小などあらゆる損失をこうむっている。強制されたのに移転費用もすべて自前だ。損失補償なき移転・解体は、明白な財産権の侵害・憲法29条違反だ!しかも、築地市場は「廃止認可」を受けていない」東京労働組合交流センターはこう結論付ける。
センターによると、築地市場の小売店6店舗とお茶屋が築地に残り、何があろうとそこで営業を続ける。移転を決定した100を超える関係者は築地への帰還を試みるという。 記事執筆時点で、築地市場の門付近での抗議運動は依然として続いている。「買い物」という口実で活動家らは中に突入しようとしており、時折それは成功している。
まるはちさんのビジネスの今後の運命は霧に包まれている。明白なのは、まるはちさんが築地で営業を長く続けられないということだけだ。都知事の決定により、18日から市場では電気水道が切られた。
豊洲
豊洲新市場は一見すると、機密施設を多くの点で想起させる。二重窓に入場証による厳しい入場、ほぼ全てのドアに警備員。正式開場の前日、スプートニク特派員は開場式の取材許可を得ようと試みたが、東京都中央卸売市場の職員はこれを無視しただけでなく、上層部とのインタビューも拒否した。その上、翌日の市場営業時間すら明かさなかった。13日、スプートニク特派員らはプレス・カードで市場に入ろうとしたが失敗。長い行列に並び、一般の人々同様に中に入った。
マグロの競りを観ることができるのは来年1月からだが、一般人は水産コーナーに完全立ち入り禁止。13日、開場1時間前にはすでに、市場入り口付近で人が集まり始めた。開場時間である朝10時には行列は数十人になり、11時には数百人になった。列では、開場1日前に訪れ、入り口付近で一夜を過ごした者もいるという噂が流れた。
豊洲市場は5階や6階建ての大きな建物3つからなる。だが一般人が入れる場所は大きく制限されている。水産コーナーで一般人が入れるのはレストランゾーン、見学者ホール、包丁や海藻、お土産といった関連品が売られている階だ。魚は全く無い。水産ホールに降りられるエスカレーターへ向かう一般人は警備員が引き止める。プレス・カードも意味がなかった。
豊洲を訪れた、ある外国人観光客は「魚の競りが今見られないのはおそらく、市場一の欠点でしょう」 「ここに来る人は、競りがどう進むかを見ようと望む人で、寿司は他の場所でも食べられる」と嘆く。
いっぽう他の外国人観光客は「良いところは、マグロの競りを自由に見られるようになることです。築地市場では特に近頃は多くの問題があった。ここではオンライン予約が機能するということですが、システムは築地ほど厳しくはならないということです」と話した。
長い廊下を通り、カメラを持った人々が周りに集まる巨大なマグロの模型を過ぎると、そこは再び警備所の前だった。だが今回はプレス・カードが効果を発揮し、警備員は私たちをビジネスゾーンに通した。
丸千千代田水産株式会社の広報担当、石橋秀子さんは言う。「本当は2年前に来ているはずだったんです。アクセスは少し悪くなるなど不安な部分はありましたけど、閉鎖型といって密封された大きな冷蔵庫の中で仕事ができるので、海外の対応ができるようになります。日本の美味しい魚を日本の人たちだけでなく、海外の人にも提供するためのバリューが付け加わったという点では、よかったと思います。不安はみなさんあるようですけれども」
石橋さんはそう言いながら、満足げに新しいオフィスを示す。
「トイレもすごくきれいになったことが自慢です(笑)。ちょっとディズニーランドみたいにカラフルでしょう 」と石橋さんが語る。古い築地に比べると、中庭とリラックスルームまである新しい豊洲は確かに、宮殿に似ている。
「築地の最後の日を見ていたんですけど、普通にその日まで営業していて、12時で終わって、一本締めを『たんたんたん、たんたんたん、たんたんたん』と叩いたらもう終わりで、切り替えて、引っ越し。これが、築地の人達の素晴らしさです。『寂しい』と言っている人は誰もいなくて、みんなパワフルに『頑張ろう』と」 そう語る石橋さんの気持ちを、オフィスに充満する祝祭感から察するに、全員が共有しているようだ。
築地市場ではすでに1週間以上解体作業が行われている。2020年の東京五輪までに現在の築地がある場所に、勝どき駅付近に滞在する選手のための駐車場を設置する予定だ。
豊洲新市場の上層階のオフィスゾーンの廊下と、すでに魚の匂いを吸い込んだ下層階では、以前築地がそうだったように、運搬車と長靴を履いた市場関係者が急いで移動している。新市場は多くの問題と批判を多く引き起こしているが、大切なものは変わっていない。東京の海鮮レストランや店には依然として最も新鮮で何より美味しい魚が配達されている。
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