すっぽんとねこみしか

日本人がロシアの子どものための漫画を制作
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石山ユトクは本格的に絵を学んだこともなく、ロシア語を専門として勉強したこともない。しかし、高校生の頃にチェブラーシカとソビエトのイラストレーターの作品に触発され、ロシアの子どものための漫画を制作することを決めた。現在、石山さんは既に3冊の本を出版しており、インターネット上に多くのファンを持ち、洋服やおもちゃを販売している。そのうちのひとつをスプートニクにプレゼントしてくれた。
すっぽん: 「僕たち病気だから、もう掃除を終わろう。

ねこみしか:「え、僕も?どんな病気?」

すっぽん:「これは「健康病」さ。気分が良くて、病人ってわけじゃないんだ。そういう病気なのさ。」

「すっぽんとねこみしか」とは誰なのか?
「すっぽんとねこみしかの話は、人間が火星に引っ越して地球からいなくなった後の話です。そのため、話に人間は出てきません。そして、動物たちは人間のまねをして暮らしています。例えば、人間が車に乗っていたことを知っていたので、彼らも車を作りました。ですがそれは難しかったので、代わりのものを作ります。つまり、彼らが人間の真似をするけど、時々失敗する。これは、私がロシア語を勉強して、ロシア人のように話そうとするけど、失敗することと似ています。そのため、私の気持ちがこの漫画には入っています。同じようなことがしたいけれど、よく失敗する。そのような話です」
ねこみしか:テーブルの下で生活することにしたよ。食べたらすぐ寝て、起きたらすぐ食べられる。メッチャ便利!

すっぽん:面白いね!僕もやってみよう。
漫画の主人公はシベリアのカメ「すっぽん」、そしてネコとネズミから生まれた子どもの「ねこみしか」である。石山さんによると、漫画のアイデアは日常生活をユーモラスで道徳的に反映したものだという。主な読者は子どもであるが、話の主題は汚職や強欲など「大人」のニュースであることが少なくない。漫画のなかではロシア語に日本語が混ざっていることがある。こうすることによって、石山さんは読者の日本語に対する関心を高めたいと考えているのだ。例えば、「めっちゃ・ハラショー(良いの意)」だったり、「猫ミシカ(ネズミの意)」だったりという言葉が登場している。
「ロシア語で漫画を描こうとした理由は本当は自分でもわかっていませんが、なぜかロシア語の勉強を止めることができないんです。上手ではないんですが、ずっとロシア語を勉強しています。ですがロシア語は使わないと覚えられないので、そのためロシア語を使って漫画を作っています。これが1つ目の理由です。 2つ目の理由は、ロシアの漫画やアニメに強い影響を受けたので、自分でも同じように作りたいと思ったことです」。

石山さんは、仕事のない時間に漫画を描いている。2冊目以降は、表紙のデザインを決めて紙を購入するところから、ページかがりにいたるまで、印刷も自分でやっている。

ロシア語について
「ロシア語の勉強法としては、自分で教科書を買い、ロシア語の試験を受け、基本的な文法を最初に勉強しました。それから漫画を作り始めました。ですから、勉強しながらロシア語で書いています。ときどきロシアの友達や先生とスカイプでレッスンしています。最近は日本でロシア語を教えるロシア人をインターネットで探すことが出来るため、時々お願いすることもあります。つい最近も、個人レッスンを依頼しました」
石山さんはすべてのストーリーについて、まず自分自身で対話を書き、それを言語アプリのロシア語話者のユーザーに送ってチェックしてもらっている。石山さんはロシア語の知識が完璧ではないことから、ときとして奇妙で面白い言葉を作り出している。すると、ロシア語話者の読者はそれをすぐに拾って使い始める。石山さんはすべての作品の最後のページで、ロシア語の修正を手伝ってくれたユーザー全員に感謝の言葉を記している。石山さんによると、最近は間違いを訂正しないように頼まれることが増えているという。間違いがあることで、文章がより面白く楽しいものになっているからだ。






「私にとってロシア語の文法は珍しいです。例えば、男性と女性と中性があることに驚きました。まず、男性と女性はわかりますが、中性って何ですか(笑)私にはわけがわかりませんでした。あと面白いものは、日本では「行く」「来る」はすごく簡単で、この2つだけです。ですがロシア語では「
идти」「ехать」「ходить」「водить」など、たくさんあってわけがわかりません(笑)すごく難しいですが、それが面白いので、その面白い文法を使って描きたいと思いました。

とはいえ、とても難しく、一度はロシア語の勉強を止めようとも思いました。ですが止められず、次の日には勉強していました。ただ、難しいですが、慣れると考えなくても分かる時があります。なので、慣れが必要だなと思いました」。


インスピレーションについて
「私の絵はアバンギャルドではないですが、とても影響を受けています。例えば、シンプルなデザインだけれど何かメッセージがあるものだとか。その時代、他の国にはないものがあるのが、ロシアのアバンギャルドですから、すごく影響は受けていると思います」
石山さんのロシアに対する愛は、テトリスから始まった。テトリスのおかげで、彼はロシアについてより多く学ぶようになったのである。こうして石山さんはロシア・アバンギャルドのファンとなったが、それは絵画だけではなく文学にも及んだ。
「一番好きなのは、ウクライナ人が作った『てぶくろ』という絵本です。これは私が小学校に入る前の本当に小さい時に読んだ絵本で、今も家にある大好きな絵本です。あらすじは、おじいさんが手袋を落として、最初はネズミが手袋の中に来ます。さらに続いてカエル、ウサギ、キツネ、オオカミ、イノシシ、クマが来て、手袋が破れるという話です。このような話がロシアの昔話にはたくさんありますね。これが、私が初めて知ったロシアの物語で、大好きになりました。狭い所に皆が集まってくるのがすごく楽しそうだなと。それについての話も、少し変えつつ自分の漫画でときどき作っています。そこでは、テレモーク(小御殿)にみんなが集まり、クマが建物を壊すので、クマが来ないようにしようという内容にしました。でも、みんなで住んでいると、色々な問題が出てきます。誰も掃除せず、窓を壊し、勝手に友達を呼ぶなどして、みんながテレモークを捨てたくなるんですが、みんなで決めたことなので、誰も捨てられないんです。その時クマがやって来て、お酒を飲んで壊してしまうと、みんなが「ウラー!」(やったー!)と叫びます(笑 ほかはバーバ・ヤガー(ロシアの魔女)が時々私の漫画に出ます。彼女は日本に旅行して、日本の妖怪である鬼と恋人になって、ロシアに帰ってきます」。
ロシア人について
「みんな優しいです。時々怖い人もいますけれど(笑)例えば、インスタグラムには広告を作る機能があるので、私の漫画を広告にして、私の漫画を知らないロシア人に見せることができるんですが、「興味が無いのでこの広告は見せないで」と言ってきた方が1人いました。ただ、それは広告なので誰が見るかはこちらではわからないのでどうしようもないんですが。ですが、ほとんどの人は優しくて、いいねと言ってくれます。コメントも良いコメントが多く、修正案も出してくれます。最近では、修正しないほうが良いと言う人が多いですね(笑)変なロシア語になっていることが良いという人もいます。それは日本でも変な日本語のTシャツとかがありますので、それと同じ現象だと思います」
石山さんはすでにウラジオストクとサンクトペテルブルクで作品の発表イベントを実施した。 7月には、モスクワの外国文学図書館の児童書コーナーで新しい作品を発表する予定だ。
読者は普通のロシア人
「今までは日本とロシアで文化交流する際は、政府や大学、芸術の偉い人たちで交流していました。もちろんそれも大事ですが、今の時代はインターネットが普及しているので、普通の人たちの交流も大事だと思います。私は普通の人ですし、インターネットのおかげで普通のロシアの人達と知り合うことができます。そのため私の漫画を普通のロシアの人達に読んでもらい、直してもらう。こうした交流が大好きです」
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Tilda