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共同宣言とは何なのか?クリル諸島は歴史的に誰のものだったのか?
係争の島に関するQ&A
ロシアのプーチン大統領と日本の安倍首相が1956年10月19日付の共同宣言をベースに日露の平和条約交渉を加速することで合意した。現在、この係争の領土について政治家、マスコミ、専門家、世論が活発な議論を繰り広げている。しかし、共同宣言とは何なのだろうか?クリル諸島は歴史的に誰のものだったのだろうか?そして、両国の平和条約締結への道に立ちはだかる障害とは?こうした疑問などにスプートニクがお答えする。


どの島のことなのか?
ロシアと日本はクリル諸島の南部にあるいくつかの島々について係争を繰り広げている。それはイトゥルプ島(択捉島)、クナシル島(国後島)、シコタン島(色丹島)と無人島になっている小クリル群島の島々(歯舞群島)である。日本ではこれを「北方領土」と呼び、ロシアでは南クリル諸島と呼んでいる。択捉島と国後島で南クリル諸島の総面積の93%を占めており、色丹島と歯舞群島が占めているのは残りの7%である。
南クリル諸島(北方領土)周辺の地図




どうしてロシアと日本には平和条約がないのか?
そして、島々は歴史上、誰のものだったのか?
ソ連共産党のミハイル・ゴルバチョフ書記長(右) と安倍晋太郎外相。クレムリンにて
ロシアと日本の公式な関係が初めて樹立されたのは1855年の下田条約(日露和親条約)によってである。この条約でイトゥルプ島(択捉島)、クナシル島(国後島)、シコタン島(色丹島)と小クリル群島の島々(歯舞群島)が日本のものとなった。ほかのクリル諸島はロシアのものと認められ、サハリンは共有とされた。

1875年、両国は領土交換に関するサンクトペテルブルグ条約(樺太千島交換条約)を締結した。この条約に従って、ロシア帝国は日本にすべてのクリル諸島を渡し、日本はサハリンを放棄した。


日露和親条約
日露戦争後、クリル諸島全島に加えてサハリンの南半分が日本のものになった。
第二次世界大戦中の8月6日、米国は広島に原爆を投下。 その2日後の8日、ソ連は日本に対して宣戦布告した。翌9日、 長崎に原爆が投下された。 これにより日本は14日にポツダム宣言を受諾することになった。 同宣言の条項により、日本の主権は本州、九州、四国、北海道( および、連合国が決定する日本列島の小さな島々)に限定された。 そしてソ連軍はクリル諸島とサハリンを占領した。
1951年、対ヒトラー連合国と日本の間に和平が結ばれた。そのサンフランシスコ条約に従って、日本はクリル諸島とサハリンに対する権利を放棄した。しかし、ソ連は、日本が放棄するこれらの領土が誰のものになるのかが記されていなかったため、この条約に署名しなかった。

1956年になってやっと、ソ連と日本は戦争状態の終結と国交回復に関する宣言に署名した。ソ連は、平和条約が締結された場合に日本にシコタン島(色丹島)と小クリル群島の島々(歯舞群島)を引き渡すことに同意した。しかし、1960年、日本はアメリカと安全保障条約を締結した。それに対して、ソ連は自らが負った義務を取り消し、日本の領土から外国軍が撤退するよう要求した。

ペレストロイカが始まるまで、ソ連は領土問題の存在を認めていなかった。1990年代になってやっと、両国の対話が活発化した。しかし、今でも両国はコンセンサスに達することができないでいる。

現在、平和条約締結にとって躓きの石であり続けているのは、クリル諸島にアメリカのミサイル防衛システムが配備される可能性である。日本側は、クリル諸島の一部を得た場合、そこにアメリカの軍事施設が置かれることはないと何度も約束してきた。日本政府はまた、アメリカは日本の同意を得ることなく基地を展開することはできないとも述べている。このほか、ロシアとの領土係争を解決に近づけるため、日本外務省は軍事施設の展開についてワシントンと協議する意向だ。
2017年10月、ホワイトハウスの大統領執務室で、 会談を前にして握手する安倍首相とトランプ大統領

写真:AFP 2018, Brendan Smialowski

ロシア外務省は、クリル諸島に対するロシアの主権には然るべき国際法的文書があり、疑問を挟む余地はないと何度も述べてきた。ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官によると、ロシア政府と日本政府は両国の国益に矛盾しない妥協点を模索しているという。何らかの領土を自動的に引き渡すということは話題になっていない。プーチン大統領もまた、1956年の宣言に関する一連の問題点に注意を喚起してきた。とりわけ、島が誰の主権下に置かれるかについての記載がない点である。このため、共同宣言に基づく交渉には「真剣な追加作業が必要」だとロシア大統領は述べている。

2019年1月14日に日本でNHKが実施した世論調査と、2018年11月にロシアでレヴァダセンターが実施した世論調査によると、日本人の38%が四島一括返還に賛成しており、ロシア人の74%がこれに反対している。 このほか、より古い世論調査によると、日本人の75%が前提条件なしにロシアと平和条約を締結することに反対しており、最初に「北方領土」の帰属の問題の解決を求めている。 一方で、日本に島々を引き渡すことに賛成するロシア人は増加し、17%に達した。


2018年12月始め、プーチン大統領は、安倍首相と平和条約問題の解決に関する新しいメカニズムで合意したと伝えた。両国首脳は、両国の平和条約の締結について交渉を進める特別代表を任命した。それはロシアのイーゴリ・モルグロフ外務次官と日本の森健良外務審議官である。 その後、安倍首相がクリル諸島の引き渡しは地元住民の同意がなければ行われないと述べ、日本政府が島々に対する補償は放棄する予定だと述べたことによって、1月9日、上月豊久駐ロシア日本大使がロシア外務省に呼び出された。モルグロフ次官は、これらの発言は「平和条約問題をめぐる雰囲気を意図的に緊張させる」試みだと述べた。

1月16日には、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外務大臣が記者会見で、日本が南クリル諸島を引き渡すよう要求していることは、この国が国連憲章に対して負っている義務に矛盾していると述べた。ラヴロフ外相によると、国連憲章には、第二次世界大戦の結果はゆるぎないものであると記されている。

2019年1月22日、 プーチン大統領と安倍首相の通算25回目の首脳会談が行なわれた 。会談で両首脳は、 平和条約締結交渉を続けて行くことで合意した。


専門家の意見
クセニヤ・ナカ (日本学者、リア・ノーヴォスチ通信社・東京支局特派員)
「この3年間というもの、様々なレベルでの日露間のコンタクトはアクティブになった。それにより先々の両国関係の発展に対する期待が高まったことは、両国首脳の歩みを後退させることにはならないだろう。後退、つまりゼロ回答の膠着状態というのは、ロシアにとっても日本にとっても敗北を意味することになる。 しかしながら、どんな決定がとられるにしても、全員を満足させる結果になることはない。その決定受け入れにあたっては両者とも妥協を迫られ、社会の一部を失望させることだろう。」
アンドレイ ・イルヤシェンコ  (日本学者、スプートニク日本・政治解説者)
「外相がこの問題を独立して解決することはできない。これは国家首脳レベルの問題であるが、今回のモスクワにおける会談ではどうやら、互いの立場をその理由を述べただけのようだ。時間の経過はプーチン大統領に味方するわけだが、すでにプーチン大統領は現在の地位に18年以上もいるわけなので、彼は交渉のための交渉ではなく、まさに具体的な結果を出そうとしている。」
上野俊彦 (政治学者、上智大学教授)
「日本政府・外務省は、「1956年の日ソ共同宣言を基礎に」 というプーチン大統領の持論に合意してしまうと、 国後島と択捉島の帰属の問題が棚上げされてしまい、事実上、 国後島と択捉島については交渉できなくなると考え、 強い警戒心を持ってきた。しかし安倍総理が「 日ソ共同宣言を基礎に」 というプーチン大統領の考えに合意したことは、少なくとも、 日本側がこれまでの立場に必ずしも固執しない、 という妥協の可能性を示すシグナルである、 と見ることができると思う。」

領土問題に関する他のニュースおよび記事は、 南クリル諸島:不和あるいは協力の島? でご覧ください。
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