過去と現在の対話
モスクワで
3つの日本の写真展が同時開催
5月17日、モスクワのマルチメディア・アート・ミュージアムでフォトビエンナーレ2018が開幕した。これには日本の展覧会が3つも入っている。この3つの展覧会は、3つでひとつのものを成すかのようであり、過去と自分自身を新しい目線で見つめる機会を与えてくれる。実のところ、古い日本の写真には現代がずっとたくさん映り込んでおり、同時に現代の作品には過去の足跡が数多く見てとれる。スプートニクのエレオノラ・シュミロワ特派員が展覧会を訪問した感想を読者の皆さんと共有する。
古い日本の写真と版画
まず最初に明治時代の写真の明るい色に驚かされる。真の古さを感じさせる色あせた白黒の作品を予想していたが、むしろ、古い日本をモチーフにした色あせた写真は、多様なジャンルが存在し、レトロな写真が依然として流行している今の時代でも作れるような気さえする。隣に並んだ版画がさらに誤解を招いている。版画は写真と相まって、二つが驚くほど似ているという幻想を作り出している。
写真に色付けをすることはなにも新しいことではない。しかし、展覧会のキュレーターであるイーゴリ・ヴォルコフ氏によると、日本の色付けはヨーロッパのものとは大きく異なっているという。ヨーロッパ人が写真全体を色づけしたのに対し、日本人は丁寧に一部だけ、アクセントをつける必要があるところだけを色づけしようと試みた。それは浮世絵が描かれた手法とよく似ている。残念ながら、その写真も今は少し違って見える。時間とともに写真そのものが色あせたのに対し、色付けに使った絵の具が明るく映りすぎるのだ。
面白いことに、キュレーターによると、日本人は感情を抑えがちだというステレオタイプとは裏腹に、日本の写真はヨーロッパの写真よりもはるかに生き生きしているという。ヨーロッパの写真が控えめなのは、もともとカメラの露出時間が長いことに関連している。写真に撮られる人は長時間同じ姿勢のまま固まっておかなければならず、笑顔でこれを行うことは当然困難だったのだ。
とはいえ、1950年代になって露出時間が比較的短くなっても、ヨーロッパの写真の中の人々は「農奴解放」とはいかなかった。一方、日本の古い写真には、ヨーロッパでは撮影失敗や醜いとさえ考えられたようなものが見られることがある。例えば、食事中の口を開けた姿やピンボケの写真などである。さらに驚くべきことは、これほど活き活きした写真に写っているのが、往々にして、一般の通行人などではなく、役者だったことだ。つまり、スタジオで撮影したか屋外で撮影したかにかかわらず、完全に作られた作品なのである。
Left
Right
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Right
このように、写真は本当の意味で日本を世界に「開国」した。
このように、写真は本当の意味で日本を世界に「開国」した。
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個人の表出行動としての
「日本写真のモダニズム」
20世紀の日本の著名な写真家の一人である中山岩太氏の作品を見てみると、日本の写真が客観主義やシュールレアリズムなど、当時の西洋美術のトレンドに強い影響を受けつつ、大胆な変貌の道を進んだことに気付く。
しかし、中山の作品には西洋と日本という2つの対立するものがうまく調和している。ニューヨークとパリで10年勉強した後でさえ、中山は外国の芸術のマネはしないとしっかりと心に決め、根本的に新しいものを作り出すことを目指した。
“
長い間、私は写真と絵画は同種の芸術だと思っていました。なぜなら、どちらも平面を扱っているからです。しかし、どんなに自分のスキルを向上させても、私とラファエロの距離は際限なく遠いままです・・・そこで、代わりに、写真の美しさと魅力を掘り下げ、材料やツールの可能性を探求し始めました。その結果、一定の満足感を得ることのできる写真作品を作ることができました。
— 中山岩太
さらに驚くべきことは、中山の活発な活動がナショナリズムの昂揚と重なったことである。中山が客観的現実を写すためではなく、自分の内面を表現するためにカメラを使用したという事実は、しばしば彼に対する批判を生んだ。しかし、中山はその原則を最後まで忠実に守った。
デジタル時代の小さな人間の
孤独としての「空の箱」
現代写真家の山本昌男氏の作品は、その小さなサイズに驚かされる。展覧会のサイズが日本人の文化的特性と関連しているのではないかという印象を受ける。日本では、人々は伝統的に小さな家に住んでいるが、それでもものすごく小さな空間に閉じ込められた詩を思わせるような、まったく信じられないような感覚を作り出すことに成功している。それは日本庭園でも、茶道でも同じだ。彼の写真が発句とよく比較されるのは偶然ではない。まさにシンプルで正確なイメージで自分の作品を作り上げているのである。
彼が使用するゼラチンシルバープリントは、人々がほぼ完全に電話やデジタルカメラに移行した現代では、非常に珍しい手法である。山本は手作業で写真にエイジングを加え、穏やかに色を変える。20世紀後半の一世代前の日本の写真家とは違う。
彼の小さな作品は、美術館の他の展覧会の巨大な写真とは極めて対称的だ。山本が回顧的なビジョンを再構築しようとするのではなく、文字通りSNSに耽って生きている私たちの目をすり抜けていく世界を別の感覚で捉えようとしているのは興味深い。注目の対象となっているのは、最も単純なもの、例えば、単なる人の触れ合いのようなものである。山本は、現代の壊れてしまった人間と自然界のお互いの調和を復活させようとしている。
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