ザギトワ、メドベージェワ像はこうして作られた
フィギュアコスチューム・デザイナーへのインタビュー
フィギュアスケートと言われて連想するのは体力やスピードではなく(ただし、どちらもこのスポーツに不可欠な要素である)、まず何よりも選手の優雅さ、美しさ、そして衣装である。スプートニクは、有名選手の忘れがたいイメージの秘訣をデザイナーのオリガ・リャベンコ氏に尋ねた。エヴゲーニヤ・メドヴェジェワのアンナ・カレーニナのイメージ、アリーナ・ザギトワが演じたバレエの白鳥のイメージは、まさに彼女の手によって作られたのである。
スプートニク:
オリガ、衣装で氷上のイメージを作る上での最初の第一歩となるのは何ですか?音楽、テーマ、選手自身、選手の性格、独自性?
オリガ:
音楽はとても重要です。 たとえば、多くのスケーターはスペイン音楽で演技することを好みます。なぜなら、スペイン音楽は感情表現が豊かだからです。ほとんどの選手が独自のボレロを持っています。このような音楽の場合、音楽自体がドレスや衣装のスタイルを決めると言えるでしょう。しかし通常は、すべてを総合的に考えてイメージを作ります。選手の外見や、選手が作り出すイメージも重要です。私は自分でイメージを考えることもありますが、選手やコーチの希望を考慮します。しかし、あちら側から押し付けられるということは決してありません。それでも、私たちはお互いに何かしらお互いに説得しなくてはならないのが常です。たとえば、コーチのエテリ・トゥトゥベリゼ氏とはポリーナ・ツルスカヤの衣装で議論になりました。彼女は絶対に赤と黒のドレスがいいと言っていましたが、私は赤だけがいいと思ったのです。結局、私はエテリを説得しました。始めたばかりの選手の中には、ただ美しい衣装を着て演技したいと思っているだけの人もいます。その場合、私は完全に自由に創作することができます。
スプートニク:
最も印象的なイメージはどのように生まれたのでしょうか?例えば、アリーナ・ザギトワの有名なバレエのチュチュはどうでしょう? とても美しいとは思いますが、あれを着てジャンプしやすいとは思えないのですが?
オリガ:
まったくその通りです。チュチュを付けて踊るのは楽ではありません。チュチュはジャンプとのときにとても邪魔になります。チュチュを着けていると、通常の衣装ならば見えるはずのスケート靴が見えなくなります。そのため、チュチュに慣れるために長時間練習しなければなりません。練習用にスペアのチュチュも作らなくてはなりません。最も重要なのは、氷上で自由に動けるように正しくサイズを計算することです。ですから、私はアリーナ・ザギトワのチュチュを半分の長さにしました。アリーナの前にも、多くの選手がチュチュを着けて滑りました。例えば、前回のオリンピックでは、アイスダンスでニキータ・カツァラポフとペアを組んだエレーナ・イリニフが赤いチュチュの付いた黒鳥の衣装で滑っています。レーナ・ロジオノワも、少なくとも3回はチュチュを使っています。そして、エヴゲーニヤ・メドヴェジェワでさえも、かつて赤いチュチュで演技したことがあります。けれど、アリーナ・ザギトワの場合、ひとつの現象となりました。彼女はあまりにも若いオリンピックのチャンピオンだったため、誰よりも注目を集め、あのイメージが定着したのです。あの後すぐ、小さなスケーターのためのチュチュの注文が殺到しました。ここまでマスファッションになってしまったのは少し悲しいことです。しかも、スポーツの分野で。
ニキータ・カツァラポフとペアを組んだエレーナ・イリニフ
スプートニク:
ところで、年齢についてお聞きします。エヴゲーニヤ・メドヴェジェワがどうしてアンナ・カレーニナのイメージを選んだのかと訊かれたときに、彼女はとても簡単な答えを返しました。「私は大人になったんです!」と。しかし、レフ・トルストイの小説のアンナは、かなり成熟した女性です。どうすれば、エヴゲーニヤの若さとトルストイの小説のヒロインのドラマティックな人生を結びつけることができたのですか?
オリガ:
この場合、色が大きな助けになりました。色はすぐに決まったわけではありません。最初は茶色にしたのですが、最終的にボルドーで落ち着きました。ボルドーはただ美しいだけではなく、深みも持っています。しかし、うまくいったのは、何を差し置いてもエヴゲーニヤの芸術性のおかげです。私たちが見ているのは若いエヴゲーニヤですが、彼女の素晴らしい演技は私たちにそれを忘れさせます。私たちは、氷上での彼女の感情表現に感銘を受け、すべてを彼女と一緒に体験するのです。
スプートニク:
フィギュアスケート選手に人気の色、不人気の色は何ですか?
オリガ:
フィギュアスケートでクラシックな色は赤、青、黒です。白は氷上で同化してしまいます。文字通り氷に「食われて」しまうのです。ですから、必ず影を付けるか、他の色と組み合わせて使用する必要があります。私の好きな色であるグレーも同じです。ロシアのコーチの多くは絶対的に黄色が嫌いで、特に理由の説明もなく、自分の選手に黄色の衣装を着せたがりません。私には、太陽や花を連想させる、明るくて暖かい、とても美しい色に思えるのですが。黄色は色調が豊富です。たとえば、緑と組み合わせると、美しいピスタチオ色の色調になります。フィンランドの選手キーラ・コルピは、黄色を使った衣装で演技をしました。とても美しかったです。
— 外国のデザイナーで好きな人はいますか?
日本のデザイナー伊藤聡美氏の作品に感動しています。現在、私はインスタグラムで彼をフォローしており、大きな関心を持って彼の作品を追い続けています。彼の作る衣装には、とても細かい手の込んだ細工が施されています。例えば、日本の巨匠が作った芸術的な刺繍などです。彼は日本のフィギュアスケーターの宇野昌磨ための衣装を作っていました。
スプートニク:
現在、何人の選手の衣装を手がけていますか?
オリガ:
現在、すでに製作が始まっている衣装で、2018年末まで埋まっています。それ以外に30人が予約待ちをしています。今は、ソーシャルネットワークのおかげで、外国からも注文が入ります。最近、メキシコに1着、米国に1着、衣装を発送しました。スイスからもいくつか注文が入っています。 測定はスカイプを使用して行いましたが、良いマネキンがあったおかげで、サイズはぴったりでした。
スプートニク:
氷上であなたが最も好きなイメージは何ですか?最も鮮烈で記憶に残る、強い感情や共感を引き起こすイメージは?
オリガ:
好きなイメージはたくさんあります。今年は、オリンピックに出場したドイツのペア、アリョーナ・サフチェンコとブルーノ・マッソが素敵でした。彼らのプログラムはとてもカッコよく、最高の演技でした。デザイナーとしては、アリョーナがショートプログラムで着ていたフリンジの衣装が好きです。ショートプログラムの熱狂的な音楽ととてもよく調和していました。また、以前には、エレーナ・ロジオノワが映画「タイタニック」のテーマで作り上げたイメージが大好きでした。エレーナ自身が語ったように、彼女はその時代の写真を数多く見て、その時代をイメージしたドレスを自分で考案したのです。
アリョーナ・サフチェンコとブルーノ・マッソ
—過去のシーズンのドレスはどんな運命を辿るのですか? どこに保管されているのですか? ボリショイ劇場の衣装博物館のような博物館があるのでしょうか?
私の知る限り、残念ながら、ありません。ほとんどのドレスはアスリートの手元に残ります。現在、CSKAのスタジアムに小さなフィギュアスケート資料館があるだけで、これも今のところ有志によって作られたものです。有志の人たちはフィギュアスケートに関連するさまざまなものを収集しています。ですから、もしかすると、将来的には拡張されて、本物の博物館になるかもしれません。そうなれば、そこにはスポーツ遺産として、オリンピック金メダリストのアリーナ・ザギトワのチュチュや、銀メダリストのエヴゲーニヤ・メドヴェジェワの衣装が展示されるでしょう。なにしろ、エヴゲーニヤの絵はもう飾られているのですからね。
オリガ・リャベンコ
Made on
Tilda