極寒のシベリア・米国
マイナス50度下サバイバルの秘訣
今年の冬は露米各地に異常な寒波が到来した。シカゴではマイナス30度を下回ったうえ、極循環の影響で体感温度はマイナス40度以下に至った。シベリアでマイナス30〜50度という気温は珍しい現象ではない。シベリアはロシアだけでなく、世界の定住地のなかで最も寒い地域だからだ。そうした町にはベルホヤンスク、ヴォルクタ、ヤクーツク、ノリリスク、ウスチ=クート、オイミャコンがある。中でもオイミャコンは北半球で最も寒い気温が観測された寒極に登録されている。
オイミャコンはロシア北東に位置し、同名の村など複数の居住地を含む地域だ。冬の平均気温はマイナス40度。住民はマイナス50度をよくある気温だとして、マイナス30度となれば暖かいと感想を述べる。彼らが言うには、風が強くなければ適切な服を着た人間はマイナス70度まで耐えられる。この村で観測された最低気温はマイナス71.2度。住人はどんな寒波が来ても仕事に勉学、散歩に外遊びを続ける。
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クラスノヤルスク
その秘訣は?いちばん大切なことは、正しく服を着ること。重要な原則は、多層。服の中の空気の層が暖かさを閉じ込める。現地住民の最適解は、機能性肌着にウールセーターを着て、その上にダウンか毛皮のコートを着込むこと。靴はロシア伝統の羊毛フェルト長靴「ワーレンキ」か裏ボア仕様のブーツの表面に防水性の高密度の布もしくは毛皮をあしらった「ウヌティ」だ。使われる毛皮は鹿革で、ビーズや民族文様で装飾することもある。防寒ズボンに帽子、ミトンは冬の一式に不可欠だ。ミトンなしで指が極寒に耐えられるのはせいぜい2、3分。後はハンマーで殴られたような感覚がしてくる。
寒気を吸い込まないよう、マフラーで忍者のようにほぼ完全に顔を隠す。マイナス30度で眉毛とまつ毛は数分のうちに氷の「フリンジ」に覆われる。マイナス50度の際、30分以上の外出は推奨されない。
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公共交通機関は寒波到来時も稼働している。バスは必ず二重ガラス。深夜には0度を下回らないよう暖房のきいたガレージに置かれる。翌朝、問題なく車のエンジンをかけられるようにするためだ。マイナス50度の時、運転を控える人も多い。そのため、道路を行く車の数は夏の半数近くに減る。大半の乗用車のエンジンの想定最低温度はマイナス50度で、下回ると正常に機能しなくなる。仮に運転すれば、ガソリン代は通常時の2倍に跳ね上がる。
クラスノヤルスク
セントラルヒーティングがある屋内の日常は外部の天候に左右されない。だが木造一軒家に住む人は1日2回暖炉を起こす。薪は先に用意する。熱効率が高いカラマツが好まれる。シベリアのほぼ全戸では二重床か分厚い絨毯が引かれており、地面からの寒さが屋内を冷やさないようにしている。各戸に電気暖房器があるが、極度の寒波では大量の負荷がかかり、必要な熱量を生み出さない。ペット用の空間も暖房が効いている。
オムスク
北部に住んで長い人々は、極寒下で空腹の人間が凍えるスピードの速さを知っている。そのため寒い季節、この地域の人々は脂を多く含む食材を摂取しようとする。肉や魚、バターなどだ。北部の最も洗練された料理は燻製鹿肉と、冷凍生魚の薄削り「ストロガニナ」だ。ストロガニナは黒胡椒入りの塩を付けて食べ、ルイベに似ている。外で長時間滞在した人は熱々のお茶を飲む必要がある。また、アルコールは控えるべき。感覚と危機察知能力を鈍らせる。
寒波の中でも人々は外遊びを楽しもうとする。例えば、真上に保温瓶から熱湯を巻き上げるのだ。熱湯は即座に氷に変わり、パキパキという音とともに風に吹かれていく。米シカゴでは寒波到来時の様子をシカゴとシベリアの名前を組み合わせて「Chiberia(チベリア=Chicago+Siberia)」と名付けたうえで、シベリアから取り入れたこの遊びをSNSに投稿する際に「Chiberia」とタグ付けしている。コニャックからキャンディを作ることもできる。寒波でコニャックを1滴垂らすと、ツララに変わる。最近流行りの遊びからは、極めて美しく樹氷に覆われた木を背景にしたセルフィ撮影がある。凍えないためにも立ち尽くしてはいけない。そのため若者は走ったり飛んだりダンスしたりと動き回る。
極寒の中で卵を割ると、インスタレーション作品ができる!
雪国名物 凍りついたズボンが着地し屹立
そして最後にもっとも重要なことがある。極度の寒波の中で生き延びるための原則、それは周囲に対する責任ある態度だ。規則を破れば命を落としかねない。そのため、シベリアでは知らない人に対しても道端で凍傷の兆候を指摘する習慣になっている。例えば顔に白いシミがあれば、すぐさま顔をこすらなければならない。冬の間、シベリアの人々は鳥や野良犬に豊富に餌をやる。車に閉じ込められた運転手の救出などはもはや、日常茶飯事だ。
© スプートニク日本
記者:リュドミラ サーキャン
写真:Maarten Takens、スプートニク
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