「食で世界が平和になる」
ミートスペシャリストの沼本憲明氏が、モスクワで和牛をカット

日本が世界に誇る「和牛」をロシアで広めるために、ミートスペシャリストの沼本憲明氏がモスクワにやって来た。通信社スプートニクの記者が、日本食レストラン「Tokyo」で行われた、沼本氏による和牛のカットデモンストレーションや、ロシア風にアレンジされた日本の「霜降り肉」の料理を取材した。
沼本憲明
ミートスペシャリスト
沼本氏は、15歳の時に肉の仕事で生きていくことを決め、その後、25年間研究を重ねながら肉を切り続けている。現在は「沼本カット」と称される「力ではなく、刃の摩擦で切る」技術を国内外で実演、指導しながら和牛の普及に努めている。
沼本憲明
ミートスペシャリスト
沼本氏は、15歳の時に肉の仕事で生きていくことを決め、その後、25年間研究を重ねながら肉を切り続けている。現在は「沼本カット」と称される「力ではなく、刃の摩擦で切る」技術を国内外で実演、指導しながら和牛の普及に努めている。
ロシア市場に和牛を供給しているのは「Sミート」社。同社は、兵庫県に本社を置く総合食肉企業「エスフーズ」と契約を結び、日本産の高級牛肉をロシアへ輸入している。沼本氏によるカットデモンストレーションを企画したのが、この両社だ。



店内は満席。ロシアでは日本の霜降り肉を実際に見たり、食べたりしたことがある人は、まだごく一部。どんなデモンストレーションが行われるのかと関心が集まる。
沼本氏は、15年間愛用している包丁で、大きな肉の塊を丁寧にカットしていく。脂や筋をきれいに取り除く。驚いたことに肉から血はほとんど出ない。肉をカットしている台にも血はついていない。これが「沼本カット」のなせる業。包丁を八の字に使い、力を入れず、肉を傷つけずに大事に扱う。傷が少ないと肉が美味しくなり、味に違いが出るという。肉の塊が次々と切り分けられ、霜降り肉がお客の前に並べられていく。ロシア人からは「美しい」との感嘆の声が上がる。
Left
Right
「マーブリング」
沼本氏曰く、和牛の特徴の一つは「マーブリング」。霜降りの度合いが世界中のどの牛よりも高いため、「頭から下まで全部が美味しい」という。Sミート社のオレグ・チェルニコフ総支配人は、「和牛の霜降りは格が違う」と指摘する。


沼本氏がカットした和牛は、レストラン「Tokyo」のシェフによって「牛肉のたたき」、「牛肉の握り」、「牛肉のステーキ」などに調理された。
一口食べるごとに「美味しい!」という声が上がり、「こんなの初めて」といった衝撃と感動が入り混じったような笑顔が生まれた。日本の高級霜降り牛肉は、醤油以外のソースや、ロシア料理には欠かせない香草、ロシア人の主食の一つであるジャガイモなどと組み合わせてアレンジされた。だが、しっかりと「日本の雰囲気」を残していた。両国の食文化が融合した見事な「作品」だった。
実は、沼本氏はこれまでにもモスクワやサンクトペテルブルクを訪れ、肉のカットデモンストレーションや講演を行っている。同氏はロシアの印象について次のように語っている-
牛の飼育からカット、調理など肉全般を学ぶ沼本氏は、牛を見ればその肉が美味しいかどうかがわかるという。そんな沼本氏は、牛肉の産地や銘柄ではなく、日本全体の和牛の中から良い牛を選び、同氏が選んだ牛は美味しいということでブランド化していく「沼本セレクション」という新しい切り口でも和牛を世界に広めていく計画。さらに「世界にはお肉に精通した『肉職人』と呼ばれる方々、有名なシェフなどがいらっしゃって、その人たちとチームを組んで世界の食肉文化自体の向上を図りたい」と語る。
「食で世界が平和になる。
美味しいっていうのは世界共通」

と話す沼本氏は、和牛を食べた人たちの「笑顔」を見るのを喜びとしている。
レストラン「Tokyo」で肉のカットデモンストレーションが終了した後、沼本氏のもとに1人のロシア人男性がやって来た。この男性は沼本氏に次のように話しかけた- 「ロシアでは一つの道を究める専門家が尊敬されます。いろんなことを広く浅く知っている人たちはいますが、専門性を追求するのはすごいことです。あなたは素晴らしい。ありがとう」。
この日、和牛の美味しさ、そして本物の技術を持つ日本人スペシャリストの生きざまは、確かにロシアの人たちに伝わった。
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