日本と同じ味か、日本よりも美味しいかも?
モスクワにオープンした居酒屋「クウ」をスプートニク編集部が取材
ノボシビルスク出身のレストラン経営者デニス・イワノフさんは今年9月、モスクワ中心部に日本の居酒屋「クウ(食う)」をオープンした。看板メニューはラーメンで、開店後の数日間はラーメン注文客で長蛇の列ができるほどの評判となった。スプートニク編集部の記者はこの居酒屋でオーナーやスタッフらに取材を行い、ほぼ全てのメニューを平らげ、お腹がいっぱいになった。その感想を読者の方々にも共有したい。
ノボシビルスクのレストラン王と呼ばれるデニス・イワノフさんは、シベリアで数十もの飲食店を経営し、その内の2店舗でレストランビジネスの最高賞も受けたことがある。そして2017年にはモスクワに居酒屋を開いた。妻である日本人・千寿子さんのためだ。
千寿子の夢が実現したレストラン」
私の妻は日本人で、私たちは日本で多くの時間を過ごすこともあります。私たちの夢は、ロシアに今までなかった本物の居酒屋を開くことでした。あるとき、モスクワには本当のラーメン屋が一軒もないことに気づきました。私たちはラーメンが好きなので、美味しいラーメンが食べられる居酒屋が最善の選択だと思ったのです。居酒屋の名称「クウ」は妻が考案しました。彼女はこの仕事に積極的に関わりました。自分の夢がようやく実現したのですから。メニューも入念に考え尽くした結果、当店で提供している食事のほとんどは彼女のレシピによるものとなっています。
デニス・イワノフ
デニスさんによると、千寿子さんは大部分を日本国外で暮らしているとは言え、本当の日本の料理や接客、雰囲気を懐かしがっているという。だからこそモスクワで小規模ながらも飲食店を開店する可能性ができたとき、同じような状況にいる日本人全員がほんの一時でも日本にいるような気持ちになって欲しいと考えたそうだ。その結果、日本の料理基準に従って誕生した「クウ」は、ロシアでの日本食理解における、ある種の革命を起こしたとも言えるだろう。
「ロール(巻き物)メニューは?」
ロシア人の大半は「日本的な」料理が何たるかを知っていて、それらを好んでいるだろう。しかし彼らが頭の中にイメージしているのは、フィラディルフィアロールやカリフォルニアロールといった類のメニューで、本当の日本食とは何の共通点もない「巻き物」に限定されている。一方、ロンドンやニューヨーク、パリでは日本のラーメン屋が大人気だ。デニスさん達はこの状況に目を付け、ロシア人の好みに合わせるのではなく、その味覚を変えさせる試みを決意した。
ロシアには懐石料理店も本物の天ぷら屋もありません。だから、ロシアでこれまで一度も紹介されることのなかった日本食ブームを起こしてみたいと私たちは考えているのです。
デニス・イワノフ
アルトゥール・ガナギン(マネージャー)
私たちは繊細な日本料理文化を学び、来店したお客様にもこれを伝えるようにしています。お客様の多くはラーメンの正しい食べ方を知りません。例えば、つけ麺はつけだれと一緒にお出しする料理ですが、中には、これをスープだと思って飲み干してしまい、その味に失望する方もいらっしゃいます。このような時、私たちはお客様に正しい知識を提供するようにしています。
日本食の様式をロシア人の間に根付かせようとイワノフさん達が奮闘している様子は、店内の様子からもわかる。各テーブル上にはラーメンの種類に関するわかりやすい解説と正しい食べ方の説明が置いてある。そして日本人スタッフが出勤している日は、来店者への挨拶「いらっしゃいませ!」が聞けるのだ。
モスクワの高級日本レストランよりも美味しい!
そのままの感想を記事にしよう」
スプートニク取材班のメンバーは日本在住・滞在経験が長く、この日本食店に対するロシア人客の好反応に当初、懐疑的だった。そこで実際に店舗を訪問し、自分たちで前菜やラーメン、デザートなどを試してみた。日本人である徳山記者の食後の感想は、 「最高!香りも配膳も味もすべて、まるで日本にいるみたい。いくつかの料理は日本のオリジナルよりも美味しい」 。
我々の歓喜に満ちた表情を見て、デニスさんとアルトゥールさんは調理法の秘密を明かしてくれた。
味の秘訣
確実な味を保証するため、開店準備段階では日本人アドバイザーのグループが関わった。千寿子さんは今なお、日本の調理品質基準からの微小な逸脱も見逃さないよう注視している。またラーメンの理想的な味を求め、デニスさんとアルトゥールさんの二人は日本に長く滞在し、一週間もの間ラーメンだけを食べ続けたときもあったという。そして調理師の一人であるタカハシ・ミツオさんは製麺を担当し、他のメニューの調理過程を管理している。なお、来店者はタカハシさんが製麺専用スペースで生地を伸ばす様子を見ることができる。客に対して開かれた厨房も、この飲食店の魅力の一つだろう。
しかしながら、オリジナルの日本食に厳密に従うのが難しい場合もある。一例として、来店者には豚肉を食べない人も多いため、メニューには鶏肉の出汁を使ったラーメンも提供されている。
ソース類や海苔など食材の多くは日本から輸入しています。ですが、ロシア国内でも高品質な食材が入手できる場合は、それを調達しています。例えば、ポテトサラダはロシア産のジャガイモから作っていますし、唐揚げ用の鶏肉も国内農場のものです。逆に、枝豆はもちろん日本産ですし、マグロも例外なく日本から毎日空輸で取り寄せています。
アルトゥール・ガナギン
日本でロシア料理店を開く可能性は?
モスクワの居酒屋は開店から1ヶ月で大人気となり、今や休日に空席を見つけるのは難しい状況だ。経営者達は、現在の人気が継続するのであれば、やがてはチェーン展開も期待できるとしている。では、日本でレストランをオープンする計画はないのだろうか。
はい、日本でもレストランを開業したいと考えています。ですが、ロシア料理店を開きたいとは全く思いません。実は、ビーツのスープを使用したラーメンを作りたいというアイデアがあるのです。つまりボルシチとラーメンの融合ですね。うまくいけば、日本でも需要が見込める現実的なメニューとなるでしょう。私たちは、ピロシキやボルシチだけでなく、現代風かつスタイリッシュで、日本人が面白いと思ってくれるようなものを作りたいのです。
デニス・イワノフ

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アナスタシア・フェドトワ
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徳山 あすか
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