バレエ 舞台裏の世界 そこでは何が起きている?
9月1日、2日の両日、東京でロシア4大バレエ団のソリストらによるガラ・コンサートが開催された。この公演は、5週間におよぶ4大バレエ団の日本ツアーの最後を飾った。9月1日、リハーサルと本番の間の休憩時間に「スプートニク」は舞台裏に伺い、下ろされた緞帳の向こう側の世界を取材した。
楽屋にて
ガラ・コンサート開幕の2時間前、静まり返った観客席とは対照的に、すでに楽屋は熱気に包まれていた。アーチストたちはゲネプロに向け、準備に余念がない。廊下に直に座ってストレッチを行う人、衣装チェックに余念のない人…。その隣では伝説のダンサーのファルフ・ルジマートフが熱狂的なファンを迎え入れていた。私たちが取材を申し込んだのはミハイロスキー劇場の有名なペアダンサーであるマラート・シェミウノフとイリーナ・ペレン。2人はリハーサル衣装で、快く我々を迎え入れてくれた。
今年はイリーナにとっては、バレリーナとしてのキャリア20周年という節目の時にあたる。ところがこの記念日は、実は彼女の日本公演開始の20周年とも重なるのだ。
イリーナ:実は20年前の9月1日、ロシアバレエアカデミーの卒業公演として、私は初めて日本を訪れたんです。初めての日本旅行ではありません。私はアカデミーの生徒でありながら、初の来日公演で来たのです。たぶん、11歳だったと思います。そうしたこともあり、日本は私やマラートにとっては故郷なのです。なつかしい舞台や劇場で観客のみなさんにお会いできることを、本当に嬉しく思います。最近、あるファンの方とお会いしたのですが、その方が20年前の1998年当時の公演プラグラムの写真を見せてくださいました。それを見せながら彼女は、当時の公演も観て、そして今日の舞台にも再び来ることができたとおっしゃるんです。定期的に私の創作活動を追って、楽しみにしていますと。日本のお客様というのはしっかり見守ってくださるんです。日本に戻ってくることができること、そしてここで踊れることを、いつもとても幸せに感じます。
マラートとイリーナがペアを組むのは、舞台の上だけではない。2010年に2人は結婚し、2年後には女の子を授かった。子どもの名前はエヴァ。日本公演には家族そろってやってきた。

マラート:今回、私たちは静岡県の白浜海岸を訪れ、とても感動しました。白い砂の海岸で、素晴らしい休日を過ごすことができました。沖縄以外でこんなに美しい海岸を見るのははじめてです。今回、家族みんなで来ることができたのは大きなプレゼントです。
イリーナ:それと、山々に囲まれた日本の旅館と熱い温泉。私たちはこれに目がなくって。

マラート:そうそう、日光の美しさにも魅了されました。娘がまだ8カ月だった5年前にも訪れたことがあります。ほんとうに日光はいいですね。
9月1日のガラ・コンサートでは2人はロイ・アサフ演出の新作『六年後』の一部を披露した。30分にわたるこの舞台はずっと裸足で演じつづけねばならない。イリーナは初め、トウシューズなしで踊ることに怖さを感じたという。イリーナは、バレエの振付けはとても難しく、公演のために80時間を超える練習とリハーサルを積んではいても、準備ができたといえるのは全体のほんの一部たらずだと告白している。
ステージの裏側
ガラ・コンサートの開演まで、あと1時間半。アーチストたちは最終リハーサルを行うため舞台に立った。劇場によってはこの最終リハを観客が入った状態で行うことがある。こうした公開リハーサルのチケットは、本番の公演に比べ、たいてい安価な設定となっているが、その内容は本番に見劣りしない。今回、ホールには数十人の観客がいたが、舞台では熱心にリハーサルが行われていた。アーチストは、メイクや衣装なしで部分的にとばしながら確認していく。
振付は「中心を保って!」「もっと右」「バランスを崩さない」とダメ出しをし、踊りの流れを遮る。ダンサーの方からは、音響がうるさすぎる、照明が暗い、リハーサル時間が短すぎると文句がとんだ。舞台上の作業に関わっていない人間にとっては、これは不可解で、正直退屈な時間となった。こんな中、観客席の後部ではダンサーも参加し、ロシア側と日本側の照明と音響係が光と音と映像効果、幕のタイミングなどの調整を行っていた。
リハーサルの後、ダンサーは本番に向けてメイクや衣装の準備を行い、舞台上では設営がはじまる。アーチストというのは概してジンクスを重んじる人種で、それぞれに、舞台に上がる直前に必ずやるべき「儀式」をもっている。ジャーナリストとの写真撮影やおしゃべりは縁起が悪いとされ、大半の役者がそれをやらない。
ガラ・コンサートは3時間の長丁場で、2回休憩が入る。舞台上では、『眠りの森の美女』や『ドン・キホーテ』、『ムーア人のパヴァーヌ』のワンシーンの他、短めの現代バレエも披露された。観客はそれぞれのアーチストの演目に大喝采をおくり、ファルフ・ルジマートフによるバリエーションの『レクイエム』ではスタンディングオーベーションとなった。
幕が下りると、疲れと同時に幸福感に満ちた表情のマラート・シェミウノフが舞台上で写真撮影をしないかと声をかけてくれた。客席を背にして撮影した写真が、一番見栄えがするという。
ミハイロスキー、マリインスキー、ボリショイ劇場、スタニスラフスキー&ネミローヴィチ=ダンチェンコ記念音楽劇場のソリストらによる日本公演は、ロシア・日本交流年のプログラムの一環として開催された。マラートは、この公演に参加できたことは大きな名誉だったと言ってくれた。「ロシア・日本交流年で、私たち両国にとって壮大で友好的なこの年の素晴らしいガラコンサートに参加できるなんて、なんと幸せなことでしょう。」
関連ニュース
Made on
Tilda