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未だ消えない「カラーコード」 露日でアルビノはどう生きる
1月中旬、生まれつき色素の薄いアルビニズムの神原由佳さんに関する記事が日本の紙面を賑わせた。彼女が直面する問題を取り扱った記事のテーマは健康問題ではなく、社会に受け入れられない「普通とは違う」外見だ。日本では神原さんが履歴書を送っても、髪色を黒に染めず、職場の「カラーコード」に順応しない限り雇用を拒否している。スプートニクは神原さんとロシア人モデルでアルビニズムのアナスタシア・ジドコヴァさんからインタビューを取り、現代におけるアルビノの生活をたずねた。

「髪の毛を染めるのは自傷行為」
神原由佳の話
神原由佳さんとは渋谷駅で待ち合わせた。ハチ公像の周りに集まった人混みのなかでさえ、神原さんはその金髪ですぐに見つかった。その他の点では、神原さんは同年代の日本人女性と一切変わらない。流行りのオーバーサイズコートにヌーディメイク、気恥ずかしそうな笑顔だ。

「学生時代のアルバイトで大手のスーパーの陳列とショッピングセンターの中のアパレルの店員さんを受けたんです。スーパーではカラーコードにひっかかるから(髪の毛を)染めるなら採用できるけど、染めないなら採用できないって言われました」 神原さんは子どもの頃から他人の視線は感じていたものの、外見の問題で初めて明らかに不当な経験をしたのは子ども時代ではなく、成人してからだった。

「スーパーは面接のときから、外見からしてダメそうだという雰囲気がしていて、履歴書もあまり見てもらえませんでした」 神原さんは社会福祉で大学院を修了したが、学生時代に髪色が原因でアルバイトが不採用に終わったため、一種のトラウマを感じており、現在、就職活動において自身から履歴書を送ることをためらっている状態だという。
もちろん、髪を黒染めしてカラーコンタクトをはめ、まつげや眉毛を染めて、仕事を得ることも可能だろう。だが神原さんはありのままの自分でいることを選んだ。 「染めてしまったほうが就職には有利だと思うんですよ。でも自分らしさを殺してまでやりたくないというか、染めるというのは自傷行為に近いな、自分を傷つけてまで周りに合わせたくないと思って」
神原さんは、高校時代、髪を染めることが流行ったときに髪を染めようと思ったこともあったと述べる。


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「社会に合わせて(髪の毛を)染めるっておかしいなと思って。大学に入ると普通の子だって楽しんで染めている子が多かったので、そのせいもあって私はあまり目立たなくなりました」と神原さんが語る。

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この記事のための写真撮影中、私たちはカフェに入り、日本語で注文した。するとレジのバリスタは驚いたように「上手な日本語ですね。びっくりしました!どこから来たんですか?」と質問した。「私は日本人です」と神原さんが笑いながら答え、「金髪は生まれつきです」と続けると、店員は「本当?ロシアからかと思いました!」と驚愕した。後に、神原さんは、こうした状況が日常茶飯事で、日本人からは外国人だと誤解されると悲しそうに述べた。

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「日本は、つながりが強い分、困ったときはみんなで助け合えるメリットと、一人外れたとき、あなたは私たちの仲間じゃありませんよっていうのは、江戸時代とか、ずっと昔からあると思うんです。自分の小学校時代を思い出しても多数決などをとるときに、少数派になるのが恥ずかしいという雰囲気があるんですよね。自分だけ『違うと思います』というのは言いづらいという。そういう経験を子どものうちから積んでいくと、みんなと一緒だから安心、という気持ちになるんじゃないかなと」と神原さんが語る。

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彼女が夢見るのはたった1つのこと。今10代のアルビノや、今後生まれてくるアルビノが、どんな肌や目、髪の色を持った人でも受け入れる社会で生きることだという。神原さんはSNSでアルビノの子供たちを支援している。

「アルビノであるから、カラーコードにひっかかったから被害者ヅラをしたいわけじゃありません。何もない普通の人だって生きづらいことはあると思うんですよ。たまたま自分はアルビノというわかりやすい形で生きづらさを感じているけど、母子家庭で育ったとか、コンプレックスがあって自信が持てないことだってある。私もそんなに高い自信を持っている方ではないですけど、みんな理由は違ってもそれぞれ生きづらさを持っていると思えば、みんな一緒でしょう。それに気づけば生きやすくなると思います」

「アニメは私がありのままの自分を受け入れる助けになった」
アナスタシア・ジドコヴァの話
日本でアルビニズムのロシア人モデル、アナスタシア(ナスチャ)・ジドコヴァさんはキミちゃんという名前で知られている。SNSには数十万人のフォロワーがいて、彼女の顔は有名なファッションブランドや大型商業施設のカタログを飾っている。

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「フォローしてくれている日本人は、全てを手に入れるためにどれほどの努力が必要だったか、想像すらしません。多くの人は、私が日本に住んでいて、お金持ちで、とても良い人生を送っていると思っています。ですが実際には全てがそうおとぎ話のようではありません」とジドコヴァさんは電話インタビューで語った。

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ほんの数年前までは、ジドコヴァさんはちょうど神原さんのように無数の会社をめぐり、就職を試みていた。彼女のアルビノは弱視を伴う。彼女は障害者だ。ジドコヴァさんは、障害者であることが、会社からの無数の「お祈り」の原因になったと述べる。
「私は非常に視力が悪く、これはアルビノに対する多くの差別を引き起こしています。ロシアで採用されなかったのはアルビノという容姿ではなく、視力の悪さと、特定の障害者グループに属するためです」ジドコヴァさんは、マクドナルドでさえバイトを断られ、大企業はもはや言うまでもないと語った。

後がなくなったジドコヴァさんは、モデル業に挑戦しようと決意。そしてすぐに日本に招待された。

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「3年半前、初めて訪日したとき、私のような外見は全く珍しいものでした。日本のモデル市場は美の点で非常に保守的であるため、仕事は少ないだろうと考えていました。日本的思考は何らかのオルタナティブな容姿を受け入れる用意が出来ていません。多くの人にとってこれはまだ反発を引き起こすものです」

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ジドコヴァさんの雪のように白い肌と金髪はスラブ系の外見とマッチして、人気を呼んだ。しかし、彼女は、日本での成功がただ外国人であるからに過ぎないと断言した。

「私への対応は全くの別物です。私が日本人であれば、全てはかなり複雑だったでしょう。今私は外国人女性として扱われ、私の性格や日本語そしてアニメへの関心がプラスに働いています。ですがそうでなければ、さらに私が一般企業で働こうとしていれば、採用されなかったでしょう。私はある日本人女性に尋ねたことがあります。『私がオフィスで働けば、私も黒髪に染めないといけないかな?』と。彼女の答えは『ええ、もちろん。見た目は普通じゃないと』でした。これはとても悲しく、奇妙です」
日本で働くことは、ジドコヴァさんの子供の時からの夢だ。外見を受け入れることができたのは、ひとえに日本のアニメのおかげだという。

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「この国、どこか私から遠い遠い国では私のようなキャラクターが描かれていることに、非常に励まされました。アニメではもちろん、様々な髪色のキャラが多くいました。ですが金のまつげに赤い目、金髪、白い肌のキャラクターもいました。日本では私のような女の子はとても美しいと見なされていて、そうしたキャラクターすら描かれるほどなんだ。そう私は考えました。とても励みになり、アニメファンになったほどです」

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結果的に、アルビニズムのおかげでジドコヴァさんは日本を訪れられた。
「航空券を手にしたときは、とてつもなく幸せでした!私はただ空港から出て、この空気を吸い、日本語を聞いて、望んだのはそれだけです。それ以外は何も必要ありませんでした。お金や仕事のことは夢にも思いませんでした」

ジドコヴァさんは今、モデル業で成長を続けている。彼女は日本を含むアジアや欧州の大企業と契約を獲得した。だが彼女の夢は、日本のモデル事務所にモデルとしてではなく、管理職として就職することだ。そのために彼女は日本語を学んだ。
「アニメはありのままの自分を受け入れる助けになりました。そしてモデルとしての訪日で、私の人生は好転しました。これは私に力を与え、日本語を学ぶモチベーションになりました。ひどい視力で拡大しないと読めませんが、漢字を書き写して勉強しています。努力して、もっと努力して、自分と自分が持っているものを評価して、モチベーションを保つ必要があります。そうすれば全て上手くいきます!」
アルビニズムとは何か?
アルビニズムとは遺伝性疾患で、アルビノは十分な量のメラニンが体内で分泌されない。メラニンは肌や髪色に関係する。メラニンが少ないとヒトの髪、まゆげ、まつげ、肌色は金色になる。色素が存在しないことで、太陽光に対してぜい弱になる。アルビノは日焼けや皮膚がんになりやすい。発症の形態によって、強い光に弱い羞明や視力の問題を伴うこともある。

国際連合人権理事会のデータによると、年平均で1万7千人の新生児に1人の割合でアルビノが生まれている。多くの諸国でアルビノは差別の対象になっている。国際連合人権理事会は、アフリカではアルビノ狩りが一産業になっていると報告する。「白人」の身体の一部が家に幸せを呼び込み、病を治すという信仰によって、アルビノは非人道的な拷問や強姦の犠牲者になっている。国連は6月13日を国際アルビニズム啓発デーと制定した。
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