ソチと長門 姉妹都市の友好
事始めを飾る美しいストーリー
9月28日、ロシア南部の保養都市ソチの「冬劇場」。
ここで長年の念願だったソチ市と長門市の間の姉妹都市関係協定を結ぶセレモニーが行われた。これから両都市間では、興味深い合同イベントや科学、スポーツ、観光、芸術、教育といった分野での文化交流が目白押しに行われる。こうして始まる新たな友情のストーリーは本当の意味で充実したものとなっていくに違いない。その源流となった2つの町の善き、感動的出会いを振り返ってみたい。

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なぜソチなのか?
姉妹都市の相手として ソチ が選ばれたのには理由がある。
2016年の5月、安倍首相とプーチン大統領の会談が行われ、日本側は8項目による協力拡大計画を提案したのはまさにここ、ソチだったからだ。
ほぼ2年にわたる合意作業をいよいよ実現化するため、大西倉雄市長を団長とする長門市の代表団は文字通り長きにわたる道のりを乗り越えてきた。というのもモスクワからの便が大幅に遅れたからだった。代表団は空港でロシアの伝統に則り、パンと塩、それに心のこもった歌という温かな歓迎を受けた。また出迎えには「日本大好き」を自称する若者たちも加わり、子ども達の中には大西市長に話しかけ、自分の日本語学習の成果を披露する者もいた。
長門市の大西倉雄市長がソチを訪問

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ソチにはすでに、日本文化と関連をもつ記念碑的な場所がいくつか登場した。今回、代表団が日本カエデの植樹に訪れた「露日友好の庭」には毎年春になると桜が咲く。この桜は有名な日本人外交官の明石康氏が植えたものだ。また「樹木園」でも代表団の訪問までに園内の「日本庭園」で手入れ作業が行われ、焼竹を使った腰掛や鹿威しが設置されている。今年2018年4月にはリゾート「イメレチンスキー」の敷地内にも露日友好の桜の園が開園した。その庇護者役には日本文化の活動家として有名な山田みどりさんが就任された。
日本代表団は市の中心部を散策し、ソチスポーツ栄光博物館、アリサ・デボリスカヤ記念オルガン・室内楽ホールを視察した。この他にも滞在日程には山岳リゾート「ローザ・フートル」、オリンピック公園、F1級のスポーツカーのワールドカップ、ロシアステージが披露された。
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訪問の重要なステージにはマツェスタ温泉療法センターの訪問も
入った。このセンターには日本側はかなり前から関心を示していた。
センターでは世界に知られたマツェスタの硫化水素ミネラル鉱泉が治に
用いられ、高い効果をあげている。
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姉妹都市提携の交渉開始はまさに、2016年12月に安倍首相の招きでプーチン大統領が長門市を訪問した後に決められた。
ロシア代表団の訪日準備は前もって進められた。露日戦争で亡くなったロシア兵が葬られた墓地は訪日の3か月前に清掃、復興作業が行われ、街頭には両国首脳のポートレートや歓迎の辞を記したプラカードが貼られ、観光用パンフレットも初めてロシア語で作られた。
【日露首脳会談 長門市開催】長門市PR動画〜海は世界でつながっている〜

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客人には露日両方の料理で心づくし
日本人は正真正銘のグルメ民族。ロシア料理に大きな注意を向けたのは当然で、市民らは是非ともこれと親しもうと「オリヴィエ・サラダ」や「ビーフストロガノフ」を作り、ボルシチ、ピロシキの作り方を学んだ。公式的な部分の終了後、ロシアからの客人を待ち受けていたのは懐石料理。席には地元の高級食材の霜降り牛「長洲」、フグ、ケンサキイカ、そして舌の上でとろける味わいが評判な 「長州 黒かしわ」など、美味の数々がずらりと並んだ。
こんなご馳走にはよい酒は欠かせない。テーブルに置かれたのは岐阜県から取り寄せた銘酒「奥飛騨」、東京近郊からのサントリーの21年物のウィスキー、そしてプーチン氏が特にお気に召されたのは地酒の
「東洋美人 壱番纏」だった。

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ロシアの客人に山口県の魅力を知ってもらうための日露親善やまぐちPR特使には、アイドルグループ「HKT48」の村重 杏奈さんが選ばれた。ロシア人を母親にもつ村重さんは、長門市のホテル従業員のためにロシア語講座を行い、外国人記者らには地元の観光名所を説明した。

村重さんが案内した名所は、長門きっての神社で海に面した岩場に続く赤い鳥居で有名な元乃隅稲成神社(もとのすみいなりじんじゃ)、周囲を尖った奇岩に囲まれた青海島(地元では「海上のアルプス」の名称で有名)。
そして向津具半島の油谷では稲穂のドレープが見事な棚田が客人を圧倒した。
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ソチ市民はもうひとつ、ゴミ処理分野で貴重な経験を長門から得ることができた。実は長門市にあるゴミ処理リサイクル施設は日本でも最新のもの数えられる。
愛を温めあう温泉
長門市のもうひとつの魅力は温泉。数ある温泉宿のひとつに1881年創業の県内きっての老舗旅館で、プーチン大統領の宿泊先に選ばれた4つ星のホテル「大谷山荘」がある。山の懐に抱かれ、音信川のほとりに建てられたこの旅館の静謐を現在の天皇皇后両陛下も好まれ、よく宿泊された。


別邸 音信
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静かに流れる時の音」
一緒に温泉につかるという夢は残念ながら実現しなかったものの、プーチン大統領は旅館の「別邸 音信」に一泊した際に個人用の露天風呂は心行くまで味わうことが叶った。
日本人は贈り物を選ぶ際に芸術品に接する姿勢でこれにのぞみ、入念に選ばれた品が相手の琴線に触れると心からこれを喜ぶ。選ばれた贈答品には特別な意味が込められており、これは重要な事項をほのめかしている。共に語り合った一夜の最後にプーチン大統領に贈られたのは『プチャーチン来航図』のハイテク技術を駆使して作られた複製画だった。1855年、エフィム・プチャーチンの来航の時にまさに露日和親条約(下田条約)が締結され、この時に日本は、プーチン大統領来日時でも議題に挙げられた領土問題のあの島々を受け取ったのだった。安倍氏のほうは返礼に、1870年製造のトゥーラ名産の銅の湯沸かし器「サモワール」を受け取った。
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友情は互いに温められた。こう推測できるのは、プーチン大統領が夕食後、テーブルに置かれた秋田犬の形の箸置きを持ち帰ったからだ。安倍氏の数回のロシア訪問のなかでまさにこの秋田犬がプーチン氏に贈られていた。秋田犬の「ユメ」は今やプーチン氏のお気に入りだ。
講道館 闘いの精神が心を束ねる
プーチン氏が2000年の講道館訪問のことをあまりにも懐かしく記憶していたため、大統領の訪日日程の最後も講道館で締めくくることになった。なぜならプーチン氏は武術に、特に柔道に深い憧憬の念を抱いているからだ。
ロシア政府代表団の訪日後、日本ではプーチン氏の顔入りグッズや秋田犬の形の箸置き、そして大統領がたしなんだ銘酒「東洋美人」が飛ぶように売れた。今や日本の店頭ではボルシチ味ヌードルが売られ、レストランでもロシア料理のメニューを取り入れるようになった。
これを成功と呼ばずして何であろうか?
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