プーシキン美術館に鳥の巣が出現!川俣正さん、地元ロシア人と創作の喜びを分かち合う
「一番の醍醐味は現場作業」
世界で活躍する日本の美術家、川俣正さんのインスタレーション作品「Para-site Project」が、モスクワのプーシキン記念国立造形美術館(通称プーシキン美術館)で8月25日から10月28日まで展示されている。作品はプーシキン美術館のために特別に作られたもので、川俣さんは展覧会開始の文字通り直前まで、地元の人々とともに制作に打ち込んだ。
パリや東京、ニューヨークを始め、世界のあらゆる場所で活躍する川俣さんだが、意外にもロシアでの制作は初めてだ。川俣さんのロシア訪問は、川俣さんの作品に魅せられたプーシキン美術館のマリーナ・ロシャク館長のたっての依頼によるものだ。
プーシキン美術館はロシアを代表するピカソやゴッホ、ゴーギャンといった西洋美術のコレクションで知られている。今回のインスタレーションは、展示室「イタリアの中庭」やその他複数の展示室、また館長の執務室など、色々なものがすでに置かれているところに、新しく川俣さんの作品が現れる、という形をとっている。
展覧会開始まで2日後に迫った23日、スプートニク取材班はプーシキン美術館を訪問した。川俣さんは美術館横の木に、鳥の巣をモチーフにしたインスタレーションを作っているところだった。川俣さんは気さくに手を振り、取材に応じてくれた。
川俣さんの創作の喜びは、地元の人々ともに協力して作品を作り上げるというプロセスにある。今回のプロジェクトには建築大学の学生、ロシアの著名な建築家ウラジスラフ・キルピチョフ氏、キルピチョフ氏が創設した建築学校「エダス」で学ぶ子どもたちがボランティアとして参加。最年少の5歳の子どもたちも一生懸命手伝った。
「子どもたちはとても熱心に参加してくれて、建物の中の仕事の半分くらいは彼らがやってくれました。最初はもちろん僕の方で少しやって、こういう風に作りましょうと声をかけましたが、今はもうまかせっきりで作ってもらっています。子どもたちはとても上手ですし、モチベーションがあります。昨日、丸一日、朝から晩まで作ってくれました。昨日で終わりかと思ったら今日もやりたいと言うので、いいですよと許可しました。僕は作品を作るときはいつも、みんなでワイワイ作る感じが好きなんです。参加した人たちと一緒に何かやることが楽しいのであって、むしろ、できあがった後に色々な人が来て何かを見て、というところはあまり気にしていませんし、会期も意識していません。一番の醍醐味はやはり、現場作業です。参加してもらうことで、作品のこともよくわかってもらえます」

川俣正さん
川俣さんは、このプロジェクト実現にあたって様々な制約を乗り越えた。プーシキン美術館には国の至宝が展示・保管されているので、なかなかプランが通らなかったり、受け入れ側のフレキシビリティがなかったり、ひとつのことを決めるのにあまりにも時間がかかったりした。
「モスクワでやるからには、モスクワにちなんだ材料を使おう」ということで、地元の廃材を使おうとしたが、「古い材料だと虫が出たりするので、できるだけ新しい木を使ってほしい」との要請があった。そこで、展示室「イタリアの中庭」にあるインスタレーションにのみ床板の廃材を利用した。これはプーシキン美術館に隣接するゴリツィン家の邸宅の敷地内にあった「哲学の家」建て替えにともなって不要になったものだ。
川俣さんは、ロシアに厳格な印象を抱いたと話す。
「初めてモスクワに来ましたが、人が笑わず、笑顔があまりない感じがします。僕は浮いているというか、ヘラヘラしていたら恥ずかしいような気持ちにさせられます。やはりこの国は厳格なんでしょうね。ロシア人は自分の国に対してすごく自信を持っていると思います。僕のアシスタントは、ホテルから美術館までの道のりを歩いていると、パリで言うところのサン・ジェルマン・デ・プレのようだと言っていました。とてもリッチで、格好をつけた人が歩いているようなイメージですね。モスクワもやはり首都ですし、ちゃんとした人が多いのかな、僕の着ているTシャツやこんなズボンでは歩けないのかな、と思ってしまいます。他の町ではきっと違った印象を受けるでしょう」

川俣正さん
展示が始まってしまったため現場作業に参加するのは難しいが、川俣さんのインスタレーションを鑑賞することで、プーシキン美術館の新しい一面、今まで気付かなかった「空間」を発見できることだろう。ロシャク館長は「彼はヨーロッパ生活が長いにも関わらず、本物の日本の芸術家。調和を繊細に理解し、この世の秩序の中に存在するものをデリケートに尊重しています」と話している。
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