「ダークツーリズム」の恐ろしい美しさ
チェルノブイリやフクシマ、アウシュヴィッツで休暇?
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アーチ門でジョン・レノンが射殺された、マンハッタンにあるアパート
世界では近年、神秘的な場所や、多数の人々の痛ましい死、悲劇、大惨事などがもたらされた場所での旅行を意味する、いわゆる「ダークツーリズム」への関心が高まりつつある。そのような場所には、放棄された都市や工場、霊廟、旧刑務所、地下の待避壕、拷問部屋もなり得る。オーストリア人のペーター・ホーヘンハウス氏は、自ら創設したオンラインプラットフォーム「ダークツーリズム・フォーラム」のページで、「人々は、自分の神経を興奮させることが気に入っているのだ」と論じている。同フォーラムのサイトでは、40を超えるカテゴリーのツアーが投稿されており、その中には、アーチ門でジョン・レノンが射殺された、マンハッタンにあるアパートさえ含まれている。
ダークツーリズムは、新たな種類の観光として定義されているものの、そのような場所や施設への関心は、決して新しいものではない。人々は昔から、秘密に包まれた、あるいは心を凍らせるような歴史を持つ場所に惹きつけられてきた。例えば、エジプトのピラミッドやイースター島の偶像、有名なストーンヘンジがそうだ。さらに、ルーマニアにある伝説上のドラキュラ伯爵の城や、ロシア皇帝パーヴェルが絞殺されたペテルブルクのミハイロフスキー城、モスクワにあるレーニン廟、600万人分の遺骨が保管されているパリの地下納骨堂、ファシストらが110万人を殺害した、ポーランド南部のオシフィエンチム(アウシュヴィッツ)にあるホロコースト博物館、日本の靖国神社や広島、長崎とそれぞれの記念館、他の多数の場所も挙げられる。

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チェルノブイリ原子力発電所
ダークツーリズムの新たな波は、1986年4月に起きたチェルノブイリ原子力発電所での事故後に生じた。当時は、誰の頭の中にも、この場所がいつか観光客の間で人気になるだろうという考えは浮かばなかった。初めのうち、放射線による危険を無視しながら秘密の小道を通ってここに辿り着いていたのは、エクストリームスポーツの愛好家や写真家、闇商人だった。
「グリーンピース」は、
世論の注意を環境問題に引きつけることを目的として、そのような「核」ルートを複数開設する構想を提案した。チェルノブイリへのツアーを実施している代理店の一つによる情報では、旅行に対する需要は最近の数年間で数十倍に伸びたという。2008年にチェルノブイリ立ち入り禁止区域(「ゾーン」)を訪れた観光客は5500人だったが、2017年には、既に5万人となっている。

2011年3月に福島第1原子力発電所で発生した事故の後、
放射線事故の現場を訪問することへの関心は、日本でもみられるようになった。初めは、この場所に密かにやって来ていたのは、最も好奇心の強く、そして向こう見ずな人々だったが、現在は、ここに観光施設を設置することについて、当局が考えを巡らせている。
日本におけるダークツーリズムの対象には、「自殺者の森」としても有名な青木ヶ原も含めることができる。
日本では、この傾向が、中田薫氏によって発行されている「ダークツーリズム・ジャパン」と題する雑誌に取り上げられてさえいる。

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DARK tourism JAPAN
一方、昨年ウラジオストクで開催された「太平洋観光フォーラム」では、追手門学院大学の井出明教授が、地元の旅行業者に対し、スターリン時代の矯正キャンプや日本人捕虜の収容用地を念頭に、ロシア極東でダークツーリズムを発展させていくよう助言を行った。
しかし何故、ダークツーリズムがますます人気になりつつあるのだろうか?何が人々に対して、居心地の良い浜辺で日光浴を楽しんだり、絵のような風景や有名な名所に見とれたりする代わりに、大惨事や人々の死と結びつけられた危険な、あるいは恐ろしい場所を訪問させるのだろうか?
「暗い過去を持つ場所への関心は、全く当然のものだ」
モスクワ大学心理学部のアレクサンドル・アスモロフ講座主任は、「暗い過去を持つ場所への関心は、全く当然のものだ」として、以下のように述べている。

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「人々は、十分なレベルの安全を伴った自分の空想の中で、歴史や大惨事、死や傷の何らかの筋書きを演じることができる場所に惹きつけられる。そして、このことは、効果的な精神療法になり得るものだ」。
National Research University Higher School of Economics (HSE)
アレクサンドル・アスモロフ氏
モスクワの地下洞窟を巡る見学ツアーを実施している会社のマネージャー、ダリヤ・キセリョワ氏は、「大部分の『ダーク』ツーリストにとっては、強烈な感覚が単純に足りていないのだ」として、次のように述べている。
モスクワの地下洞窟を巡る見学ツアー (ダリヤ・キセリョワ氏)
モスクワの地下洞窟を巡る見学ツアー (ダリヤ・キセリョワ氏)
モスクワの地下洞窟を巡る見学ツアー (ダリヤ・キセリョワ氏)

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私の考えでは、人々は一般向けの標準的なツアーに飽きてしまい、何か新しい、味わったことのない、危険と隣り合わせのものに惹きつけられているのだ。多数の人々が悲劇に遭ったり、埋葬されたりした場所への訪問を、観光客はホラー映画の視聴と同一視している。地下洞窟を巡るツアーに関して言えば、これは冒険であり、アドレナリンの発散なのだ。これらのツアーは大きな人気を博しており、我々のところには外国人も、そして身体障害を抱えた子供たちのグループさえやって来る。その1つ目の理由は、これらのツアーが興味深く、そして普通でないからだ。2つ目は、ダークツーリズムが流行になりつつあるからだ。
ダリヤ・キセリョワ氏




ノボシビルスクにある「世界記念埋葬文化博物館」のアートディレクターを務めるアントン・クニャゼフ氏はスプートニクとのインタビューで、私はこの欲求の中に、教育的側面も見出していると述べ、以下のように語った。

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このような場所は、人を引き寄せる魔力を有している。人は、感情レベルで恐怖を感じたい、現実の危険の外で危険を感じたいと思うものだ。これには、教育的側面もある。耳にしたいだけではなく、大惨事や歴史的出来事、あるいは何らかの劇的な人間の歴史に『参加する』かのように目で見て、そのほんの一部を自分の中に吸収していきたい、と思っているからだ。我々の博物館に関しては、死と危険というものは、人々に対して常に興味を持たせる事柄なのだ。
アントン・クニャゼフ氏
「ダーク」ツアーに対する需要は伸びつつあり、各旅行業者は新たな提案を準備している。例えば、最近の事例の一つとなり得るのは、閉じ込められた生徒らが7月に救出された、タイにあるタムルアン洞窟近くでの博物館建設だ。事故のストーリーは全世界が見守ったため、このことを利用しようとタイ政府は決定し、この施設がさらに多くの観光客を惹きつけることを期待している。
Depositphotos/Тuttawutnuy
タイのタムルアン洞窟
しかし、このようなイニシアティブの倫理的側面が、社会における激しい論争を引き起こしている。というのも、残念ながら、悲劇の現場を訪れる際、亡くなった人々についての記憶を尊重してほしい、せめて墓を背景に自撮りをしないでほしいとの願いにもかかわらず、全ての観光客が控え目に振る舞うというわけではないからだ。
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